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えるびび&王子の日記☆

えるびび&王子の日記☆

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(2)同種免疫異常不育症

原因:哺乳類を代表とする高等動物は遺伝子が似た固体ばかりが集まると絶滅する宿命を持っています。なぜかというと病気の半分は遺伝子が原因で発症するからです。それらには癌や膠原病などの多くの病気が知られています。遺伝子が同じだと全員同じ病気を発症する事になります。病気の残りの半分は細菌やウィルスによる感染症です。感染症に抵抗するのは免疫力です。免疫力も遺伝子によって規定されています。したがって集団の遺伝子が同じだと免疫抵抗力が同じになり、一回の”はやり病”で全滅することになりかねません。

出生すれば人類に偉大な貢献を果たすかもしれない胎児を近親児と認識して細胞性免疫機構を発動させ、N-Kリンパ球、Kリンパ球、Tリンパ球などが胎児を攻撃して殺すことで、母性は種(人類)の保存に貢献するのです。生き物が生き残るための営みはなんと過酷で残酷なことでしょう。

以上のように、種(人類)保存のために母体が母児間の免疫的乖離を識別できない胎児を近親児として細胞免疫的に拒絶する習慣流産が同種免疫異常不育症です。

以上のように、本症は胎児を近親児として拒絶する流産です。みなさんと御主人は”アカ”の他人ですが、昔から「世の中には似たものが七人いる」、「仲のよい夫婦には子供ができない」、「相性がよすぎる男女は結婚してはいけない」などと言い伝えられています。昔の人はこのような夫婦に子宝が授からない事を経験的に知っていたのでしょう。他人を識別 する遺伝子は6番染色体上部に存在します。この遺伝子は免疫と関係があり、一部は膠原病の原因遺伝子となっています。この遺伝子が夫婦で似ていると同種免疫異常不育症になってしまうのです。

本症は胎児心拍が認められてから流産(稽留流産)になることが多く、私は女児が多いことを報告しました。習慣流産の60%以上が本症です。したがって本症を無視して不育症を論ずることはできません。

検査:

HLA-タイピング:個人識別の遺伝子はHLA抗原と呼ばれ6番染色体短腕部(上部)に存在します。HLA抗原にはクラシカル・抗原(A,B,C)、クラシカル・抗原(DR,DQ)、 ノンクラシカル・抗原(E,G)があります。従来はリンパ球細胞毒試験という検査法でA,B,C,DR,DQ抗原の有無(タイピング)を調べてきました(血清タイピング)。このなかで特に注目されたのはDR,DQ抗体です。夫婦の共有数が2個以上で同種免疫異常と診断しました。最近ではPCR法で各抗原を遺伝子として同定できるようになりました(DNAタイピング)。 DNAタイピングでは問題のDR,DQ抗原はDRB1,DQA1,DQB1遺伝子になります。これらの遺伝子の夫婦の共有数を調べると血清タイピングでは同じ抗原とされたものが実は違う遺伝子であることが明らかになり、共有数が少なくなる症例が多くなるようになりました。しかし遺伝子として同定されたことで共有数が多いということは更に重要な意味を持つようになったのです。また特定の遺伝子の重要性も明らかになりました。最新の研究では妻がDRB1*1501(膠原病感受性遺伝子です)を保有していると流産率が高い事、治療のリンパ球移植では夫が DRB1*1502(これも膠原病感受性遺伝子です) を保有していると流産阻止率が明らかになっています。しかし、これらの遺伝子と同種免疫異常不育症との関係を疑問視する学者もいます。その理由はそれらが母児接触面 である絨毛に表出しない遺伝子だからです。 絨毛に表出する遺伝子はCw,E,G抗原です。私はこのなかでG抗原が最も重要と考えています。未だ研究途中なので断言はできませんが、妻に対する夫の独自抗原数が重要と考えています。独自数が少ない場合は当然のこととして共有数が多くなります。私のクリニックのHLA-DNAタイピングによる同種免疫異常の診断基準は以下の通 りです。


DRB1,DQA1,DQB1:共有数2個以上、夫固有数2個以下。

E,G:共有数2個以上、夫固有数2個以下。

以上のHLA-DNAタイピングの検査費用は非常に高価で、現在本検査を行なっている施設は研究を行なっている大学病院以外は殆どないと考えています。私の知る限り民間施設では私の施設と京都の一施設だけです。また、E,G抗原は現在商業ベースでは検査できません。

リンパ球混合培養試験(MLC):アカの他人(DR,PQ抗原の共有数が少ない)のリンパ球を一緒にすると、猛烈にお互いを攻撃します。この特性を利用した検査です。

夫婦のリンパ球を一緒にした場合、攻撃しないで仲良くしてしまっては具合が悪いのです。お互いに近親と認識していることになるからです。抑制効果 22%以下が同種免疫異常です。骨髄移植の適合性を調べるにあたっては本検査が行われます。同種免疫異常不育症においては、その経済性もあって最近はHLAタイピングより本検査の方が重用視されるようになっています。同種免疫異常検査は病気ではないため全て保険の適応にはなりません。



治療:リンパ球移植が適応です。妻は夫のリンパ球から自分が保有していないHLA-DR,DQ,E,G抗原を免疫的に認知して、胎児が夫固有のHLA抗原を保有している場合は非近親児との認識のもとに細胞性免疫の発動を止めるので、最終的に流産は阻止されます。

夫の血液からリンパ球だけを分離し、X線を照射した後に一旦凍結してから妻の皮内に移植します。GVHD(移植片宿主病;夫のリンパ球が妻の臓器を攻撃して、最悪の場合は死に至らしめる急激な膠原病)を予防するためです。当院におけるリンパ球移植の流産阻止率は80%前後と高率です。他の施設からも同じような成績が多数報告されています。

リンパ球移植無効例に対する対応:リンパ球移植によっても20%近い人が流産します。このなかの少なからぬ 胎児はトリソミー、モノソミー、三倍体、四倍体といった生存できない染色体異常児です。
リンパ球移植は染色体異常児の流産を阻止できません。
不育症では正常染色体児の流産が問題です。正常染色体児の流産はリンパ球移植が無効だった事を意味します。この場合の治療法はどうしたらよいでしょうか?
私は柴苓湯をリンパ球移植に併用する治療法を採用しています。この場合の次の妊娠の流産阻止率は60%程度です。この結果 は柴苓湯が同種免疫異常にも有効であることを示しています。柴苓湯は後で述べる自己免疫異常・同種免疫異常合併不育症にも有効です。したがって柴苓湯が同種免疫異常不育症にも有効な事は疑いがありません。
現在、リンパ球移植有効例(生児獲得)と無効例(流産胎児は正常染色体児に限定しています)の両親のHLA-E.G抗原について研究中です。まだ断定できませんが、有効例は夫が妻と異なるG抗原を保有している例が圧倒的多数を占めています。なかでも夫がG*010102,G*0105Nを保有している症例には今の処、流産者がいません。基礎研究ではG抗原はN-K細胞とタイアップして細胞性免疫を亢進するサイトカインの分泌を抑制する事が明らかになっています。
以上の臨床的、基礎的研究を総合すると、リンパ球移植の有効性の鍵は夫が固有に保有するG抗原にありそうです。もし、すべてのG抗原が夫婦で同じ場合はリンパ球移植が無効の可能性があります。柴苓湯の有効機序もリンパ球移植とほぼ同じと推測されますが、N-K細胞 、制御性Tリンパ球に対する別の直接作用の可能性も考えられ、さらなる研究が必要でしょう。

リンパ球の分離とその後の処置が煩雑なため、免疫賦活(刺激)作用がある抗癌剤「ピシバニール」を皮下注射する治療を行っている施設が増えてきました。しかし、細胞分裂抑制作用はないとはいえ抗癌剤を妊婦に注射する事には抵抗があり、リンパ球移植より安全性が高い治療とは考えられませんので、私のクリニックでは同療法は行っておりません。

夫リンパ球移植は妻が自己抗体陽性の場合は禁忌です。妻がGVHDを発症する可能性があるからです。では同種免疫異常と自己免疫異常が合併している場合はどうしたらよいのでしょうか?

前者に行われるリンパ球移植は免疫を刺激する治療です。これに対して後者に行われる副腎皮質ホルモン療法は免疫を抑える治療法です。西洋医学には免疫の刺激、抑制を同時に実現する薬物は原理的に存在しません。このような場合は柴苓湯療法が唯一の治療法になります。柴苓湯は両作用を果たす免疫調整作用を有しているのです。この場合の本院における流産阻止率は60%前後と低くはありません。またリンパ球移植をしたにもかかわらず、流産に終わった場合にはリンパ球移植と柴苓湯療法を併用する事で治療成績が上がります。

また、本治療は夫がB型肝炎、C型肝炎、白血病ウイルス(ATL)、AIDSなどの感染ウイルスを保有している場合も禁忌です。妻に感染させる危険が高いからです。この場合にも柴苓湯療法が唯一の治療法です。


■リンパ球
(赤紫に染色されている。その他は赤血球)
『コメント』最近、リンパ球移植の流産阻止作用が従来の報告より低率であるとの論文を根拠に、本治療法の有効性に疑問を投げかけているホームページがあります。これに対する反論を述べておきたいと思います。その発表はリンパ球移植の適応を”原因不明不育症”としています。しかし、リンパ球移植の適応はあくまで同種免疫異常不育症です。同種免疫異常不育症はHLA抗原(DR,DQ,E,G)のsharing(共有)とリンパ球混合培養試験(MLC)で診断されます。原因不明不育症ではそれらの検査が健康保険の適応になっていないこともあって、行われていません。HLAタイピングを行っている場合もタイピング数が少なく、なかにはクラシカルI抗原(A, B, C)のsharingを診断根拠にしている症例すら見受けられます。したがって、本来適応ではない症例が数多く含まれている可能性が高いと思われます。さらにリンパ球移植はANA, ACA等の自己抗体陽性症例には禁忌です。この際、ACAの検査法が問題です。これも健康保険の問題で感度が悪く臨床的に価値が低いベータ2GP1複合抗体やIgG抗体(MBL法)で行われることが多い現状です。ACAはあくまで臨床的に価値が高いSRL法によるIgG抗体、IgM抗体を調べるべきです。ということは本来リンパ球移植が禁忌の症例に行っている可能性が高くなります。そして、これが最も重要なことなのですが、リンパ球移植が流産阻止するのは主として女児です。リンパ球移植が無効であったかを判断するには流産胎児の染色体検査が必要不可欠です。リンパ球移植の効果 を軽視する少数派の人たちの論拠は以上の適応や検証に一切配慮を払っていない極めて杜撰な報告を根拠にしています。リンパ球移植の流産阻止率は多数の施設で80%以上と報告されており適応を守る限り極めて効果 的で安全な治療法なのです。不幸にして流産に終わった場合は流産胎児の染色体をしなければいけないのは論を待ちません。子供の死は決して無駄 にしてはいけません。



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